「無」をデータ化するとしたら、それは0バイトのデータではなく、無限に膨れ上がる宇宙のようなもの、と思う。うん。

「Wabi-Sabi わびさびを読み解く for Artists, Designers, Poets & Philosophers」を要約メモ。

原本はこっち

わびさびは、ひとつ明確な美として生まれた当初から、禅と結びついていた。禅の教義では、必要不可欠な知識は書き言葉や話し言葉ではなく、心から心へ伝えられていくものであるとされる。「知る人は言わず、言うものは知らず」。この戒めは、誤解しやすい概念について誤った解釈を招かぬように作られている。

美的蒙昧主義

わびさびの意味で一番明白なのは、美的根拠を解析不能であるとする神話の醸成である。

暫定的な定義

わびさびにもっとも近い英語は、おそらく「rustic」だろう。「シンプル、人為的でない、あるいは野暮ったい、表面がざらざわした、でこぼこした」とある。

元来、「わび」と「さび」はそれぞれ異なる意味を持っていた。「寂(わ)び」は「冷え冷えとした、乏しい、枯れた」を意味し、「侘(さ)び」は世間から離れた自然の中での独り住まいの侘びしさを言い、やる気が萎え、意気阻喪し、鬱々としている心の状態を指した。

差異

モダニズム わびさび
主として公の領域で表現される 主として私的領域で表現される
論理的、合理的世界観を示唆 直感の世界を示唆
絶対的 相対的
普遍的でプロトタイプ的解決策を模索 個人的で型破りな解決策を模索
大量生産/モジュール方式 一点もの/可変的
進歩への信奉を表現 いかなる進歩もない
未来志向 即今志向
自然制覇を感じる 自然が基本的に制御不能であると信じる
テクノロジーを美化 自然を美化
機械に順応する人びと 自然に順応する人びと
形の幾何学的構成(鋭く正確で一定した形と縁どり) 形の有機的構成(ソフトで曖昧な縁どり)
比喩的には箱(直線的、正確、ある範囲内にとどまる) 比喩的には鉢(自由な形、先端が開いている)
人工素材 自然素材
滑らかな表面 粗い表面
行き届いた管理を要する 劣化や消耗を受け入れる
潔癖さが表現をより豊かにする 腐食や汚れが表現をより豊かにする
感覚的情報の縮小を歓迎 感覚的情報の拡大を歓迎
曖昧さや矛盾に非寛容 曖昧さや矛盾に違和感がない
冷たい 温かい
概して明るく鮮明 概して暗く不鮮明
機能と使い勝手が主たる価値 機能と使い勝手をあまり重視しない
完璧な物質性が理想 完璧な非物質性が理想
恒久的 あらゆるものに季節感がある

利休以前

侘び茶の祖は、奈良出身の僧侶であった村田珠光(1423-1502)である。

利休

珠光の革新からおよそ100年を経て、わびさびは、千利休(1522-1591)によって、その極致へと高められた。

わびさびの宇宙

形而上的原理 物は、無に帰し、無から生じる
精神的価値 真理は、自然を見つめることからももたらされる
「偉大なるもの」は、目につきにくいものや見落としやすい細部に存在する
美しさは、醜さから引き出すことができる
心情 不可避の受容
宇宙的秩序との順応
道徳的戒律 不要なものはすべて除外する
内在するものに意識を向け、物理的ヒエラルキー(上下関係)にとらわれない
物理的特性 自然ななりゆきを示唆
不定形
親密
飾り気のなさ
現実的で素朴
曖昧
シンプル

わびさびは、ひとつの「総合的な」美の体系である。その世界観、あるいはその宇宙は、自己言及的な性格を備えている。わびさびは、存在の究極的本質(形而上学)、神聖なる認識(精神性)、情緒的安寧(心情)、ふるまい(道徳性)、物の全体的特徴(物質性)に向けた総合的なアプローチを展開している。

宇宙とはどのようなものか?

万物は、無に帰し、無から生じる。

消滅のダイナミクスは、ほとんどの場合少し暗く、曖昧で、静寂なものの中に表れる傾向にある。生成しているものは少し明るく、輝きがあり、明快で、若干目に止まりやすい。そして(西洋圏においては何もない空間である)無は可能性に満ち溢れている。

宇宙的秩序との感応

和紙が通す乱反射する光の様子。粘土が水分を失うにしたがってひび割れを生じる様子。金属が変色し、錆びていくときの色と風合いの変化。これらすべてのものは、私たちの日常世界の根底にある物理的な力とその秩序を体現している。

不必要なものはすべて除外する

わびさびとは、それがどんなに取るに足らないものであろうとも、出会うものすべてに感応しながらこの地球の上を軽やかに歩いて行くことである。「物資的貧しさ、心の豊かさ」は、わびさびの決まり文句である。言い換えれば、わびさびは成功――富、社会的地位、権力、贅沢――に対する執着を手放して、肩肘張らない生き方を楽しむようにと私たちに語りかける。

茶室での作法は、内在するものに意識を向け、物理的ヒエラルキーにとらわれないわびさびの価値観を明確に表現している。まず、謙虚さを象徴する行為として、誰もが間口が低く小さく設計された入口(にじりぐち)を通って、腰をかがめるか這うような形で茶室に入る。部屋の中には平等主義的空気が流れている。ヒエラルキー的思考――こちらはより高級で良い、あちらはより低級で悪い――は、容認されない。

自然ななりゆきを仄めかす

わびさびものは、時の流れを映し出す。それらは人の手や風化作用に明白に影響されやすい素材からできている。それらは太陽や風や雨や暑さ寒さを、退色、錆、変色、染み、反り、縮み、萎み、ひび割れといった手段で記録する。

飾り気がない

わびさび性は決してその作者の経歴とか人格を知らしめることで顕現するものではない。実際、作者が無名であったり表にでなかったり匿名であったりするならば、それが一番望ましい。

現実的で素朴

わびさびものは、粗野であか抜けないように見えることがある。それらは通常、土中あるいは地上にある状態からそれほどかけ離れていない素材から作られ、未加工の質感とごつごつと粗い触感に富んでいる。そこに人の手が入っていることに気づくのは不可能かもしれない。

曖昧

わびさびものは、頻度は低いが、無から生じたばかりのときの色合い、すなわち淡いパステルカラーでも現れる。未晒しの木綿や麻や再生紙のオフホワイト。若木や新芽の銀錆色。大きくふくらんだ蕾の緑茶色。

理論的概念としてのわびさび

何かがデジタル化されるためには、事象の分析と「0」「1」からなるバイナリコードへの変換という2段階の手続きを必要とする。繊細さの度合いは、バイナリコードの記述量によって決まる。「無限大の繊細さ」(リアルな世界と等しい情報量)を表現するためには、文字通り無限のバイナリコードが必要である。分析に要する時間も無限である、記述されたイメージや物を表示するデバイスは無限の解像度を要する。

ひとつの空(くう)、すなわち完全な空白・絶対無があるとして、デジタル形式ではそれがひとつの「0」としてコード化されてしまう点である。デジタル形式の「0」は、ひとつの「不毛な」空でしかない。一方、わびさびにおける空は、「存在への潜在的可能性」を「孕んだ」概念である。ここで言う「存在への潜在的可能性」とは、極めて漠然とした不定形なものである。それを見つけ出し、デジタル形式でコード化するには、やはり無限の検出感度が必要となるだろう。

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