Work from Home! さあ今日から自宅作業だよ!

フリーランスになって17年が経つ。いまのスタイルで仕事ができるようになるまでずいぶん苦しんだ。

たとえば、朝起きたらまず掃除をする。掃除機をかけてウエットシートで床を掃除する。トイレ掃除は厚手のクイックルワイパーがいい。すべてはルーティーンで、これが仕事へのスイッチ切り替えになる。

スケジュールやデータの整理など頭の中やパソコン中の掃除をして、人間がやらなくてもいい作業はすべて自動化する、という仕事をまずはやる。いつものワークフローの中でも、常に効率化できないかの視点を持ちながら仕事をする。

料理中は全体を俯瞰でみて、新たにやりたいことや行きたい場所などの思考に使う。フリーランス生活の中で身につけてきたものだ。現状が理想の形でもないし、いまでも試行錯誤の日々で、常に先を見ている。

これは自分だけの話ではなく、知る限り多くのフリーランスが苦しんで乗り越えてきたことだ。なので、事前準備もなしに「はい、今日からテレワークね!」で最高のパフォーマンスを発揮できる人がどれだけいるだろうか。

テレワークの闇

ここ数ヶ月間でクリエイティブ業界の戦死者が多い。話を聞くとおおむねこういうことだ。

プライベート空間であるはずの自宅に、仕事が侵略してきた。起きている間はずっと仕事のことが頭から離れず、寝ている間も考えている。とにかく気持ちの切り替えができず仕事をやめることができない。スマホの通知が気になってビクビクしている。通勤することがうまく気持ちの切り替えになっていて、帰宅することで仕事から離れられるリズムがあったのだ。

チーム内のメンバーが朝晩問わずメールの返信をしているのがCCでわかる。実際には途中で仕事を離れてリフレッシュしているのかもしれないが、自分もその時間まで働かなくてはいけないのだと思う。仕事のやめどきがわからず苦しい。

睡眠時間が減っているのでリカバリーされない。パフォーマンスが落ちているまま仕事をしようとするので、極めて簡単な仕事も片付けられない悪循環に陥っている。これらのことが視覚化されにくく、他人に「それは異常だよ」と指摘される仕組みがない。自己診断での精神衛生も含めた健康管理は難しい。

会社や上司による、部下の支配が強まる。物理的に離れたせいもあり、変化や刺激のない生活が連続する中で、いま目の前のことを受け止めてしまいそれが常識だと認識してしまう。どんなにおかしな習慣でも継続する。いつも同じワークフローの中では、既存の仕組みを壊して新しいものを作っていく流れになりにくい。

メールソフトでメールの振り分けができず、自分宛もCCも同じ受信フォルダに溜め込み、1,000件以上溜め込んでいる人もいる。メールフィルタやスマートフォルダなどの仕分けで、自分には関係のないまたは優先度が低いものをスルーできるかは個人のスキルにまかされる。受信メールも送信メールも、タスクとして必要なくなったらアーカイブフォルダにアーカイブして、受信フォルダを空にしていくものだけど、メールソフトの使い方なんて多くの人は誰かに学ぶこともない。

Slackをチャットとしてのみ使う人もいれば、自分が使っているツール群のHubとして連携している人もいる。テレワークの時代において、チーム全体のリテラシーレベルの平均値(正しくは下限値)が大きく影響するSlackは相性が良くない。オフラインになるスキルを持たない人の脳を疲れさせて、パフォーマンスを落とすにはそう時間がかからない。Slackとタスク管理サービス(WrikeやTrelloなど)を連携させて半自動化させ、うまく自分が自由になれる時間を作るなんて使い方ができているのはごくわずかだ。そうやってSlackがテキストチャットとしてのみ使われる。

一定期間ごとに自分が使うツールを見直し、新しいツールも積極的に試してみて、良ければそれを取り入れていき、アップデートし続けられる人もいる。一方で、一度これを使おうと決めたツールをずっと使い続けるような人もいる。2,3年もたてば仕事のやり方自体が古くなっているので、周りの新しい人たちの足を引っ張ることになる。何十年も積み上げてきたスキルなんて、時代に対応できなければただの老害だ。かといって、チーム内のひとりだけが自分勝手に各種Webサービスと連携して仕事を進めて、ブラックボックスが増えていくのもよくない。そういった、より良いやり方をチーム内で定期的にレビューする仕組みづくりがすでにできていないと変化し続けるのは難しい。

スマホの通知をオフにする。必要ないメルマガは配信停止して、無駄な通知は一切無くす。生産性のないグチのやりとりのグループからは抜ける。1日中通知に追われていると、短期間でパフォーマンスが低下する。業務で使用しているツールは同じだから、会社単位でみんな疲れているという状況が起こる。おおむね10〜25%に下がったパフォーマンスのままずっと仕事を続ける。そうずっと深夜まで。

限界を感じたら一度リアルで集まった方がいいと思うし、時間や働き方をマネジメントする洞察力の高い人が必要。テレワークに必要なのは、最高のデジタルと最高のリアルの組み合わせだ。アナログではなく、デジタルを駆使した先にある「デジタルからアナログに帰還する場所」こそがいまのリアルに必要。いまのテレワークは、従来の働き方の延長線上にあるものでしかない。対面で仕事ができなくなったから、オンラインでかろうじて繋がっている「かのように」振る舞っている。オンラインミーティングをすることが潤滑なコミュニケーションではない。プレート型のデバイスの前で映像と音声でコミュニケーションをとることがあまりに原始的だからだ。

人はずっと家にこもって健康でいられるようにはできていない。心と身体のバランスは必ず連動している。身体を動かせば頭の働きが良くなるし、心と身体の両方が疲れることで寝つきも良くなる。その状態で睡眠をとればしっかりリカバリーできる。ここで大事なのは、楽しいワークアウトであること。やらなくてはいけないとストレスを感じるようではやらない方がいいし、そのストレスでまた動きたくなくなるループにおちいる。ワークアウトの習慣を作るのは多くの人が苦労する。頭だけが疲れているけれど身体はそこそこ休めているという日々が続くと、その問題を問題として身体がシグナルを出してくれなくなるようだ。そこそこリカバリーしてそこそこ低いパフォーマンスで動けるようにデフォルト値が設定される。

それぞれの問題を切り分けて考える必要がある。新型コロナウイルスに対する知見、進化するべき時代の境目であること、テレワークで仕事をすること、自宅で仕事をすること、ワーケーションで自宅以外で仕事をすること、離れ離れになったチームメンバーとつながるためのツールの変化、使い続けているツールのアップデート、スキルの継続したアップデート、対面ミーティングの頻度。当然すべては関連しているけれど、すべて切り分けて考えるべき問題と視点。お互いが見えていないので、何をしたのか、何をしなかったのか、問題を解決するための知見もたまりにくい。

そういったスキルやリテラシーを身につける機会がないままに、突然テレワークが始まった。

ワーケーションの「ワーク」の時間

ひとえに仕事といっても色々ある。たとえば、

  • 集中してゾーンに入って作り込む
  • 実作業としてビジュアルやテキストに落とし込む
  • テキストを推敲する
  • 思い悩みながらラフスケッチをする
  • 頭の中でアイデアをふくらませる

このうち上層部へ行くと仕事ができる場所は限られてくる。総合した時間ではなく、まとまって集中して仕事をする時間が必要。一方で、下層部は移動中の作業が適している。そう、移動中の仕事だ。

多拠点生活/アドレスホッパーという生活をしていると、1日の中でどうしても移動時間が占める割合が大きくなる。また、滞在先で仕事がしやすいと感じたことはごくわずかで、上記にリストアップしたどの層の仕事をするかと場所とがマッチングするとは限らない。そこで編み出したのが、移動中に仕事をすること。バスで作業すると酔うので、できれば鉄道か飛行機がいい。電車の振動はちょうどいいし外の景色も常に変わっていくので、中下層の仕事にはむしろ向いている。ただ、慣れない姿勢で集中して首肩腰を痛めないよう気を付けていただきたい。

どこに住んでどこで仕事をするかというよりも、「on the go」の視点だ。仕事をする「場所」について、順を追って書きたい。

ホテルで生活して、ホテルで仕事をする

ホテルで仕事をするという選択肢もある。ラグジュアリーでリュクスなホテルは、いかに何も起こらない生活に価値を与えてくれるかという点ですばらしい。ビジネスホテルやシティホテルでも、自分が求めている空間と合えば快適に過ごせる。けれど、ホテルで中長期間の生活や仕事をするとなると視点が変わってくる。たとえば海外でのホテル生活は2週目から口内炎ができ始める。その頃にはただの寝る箱になってくる。人間どんなに着飾っても、裸になればただの人や獣である。ホテルも同じで、色んな価値を付与された寝る箱になる。でも、そこにキッチンがあると少し快適な空間に変わったりする。

コンフィデンシャルな仕事、よりセキュアな環境が求められる仕事を職場以外でやるとすると、自宅かホテルの選択肢になる。ホテルのランクを上げていくと、信じられないくらい壁の厚みが増してくる。室内の大音量も外にはささやき程度にしか音漏れしない。つまりは自分以外の人が発するものはノイズであり、そのノイズは自分がリラックスして思考する時間を阻害するものであるからだ。

上品なノイズ

対して、上品なノイズというものもある。たとえばコワーキングスペースといっても色んなコンセプトを持っているが、「それ」が見えているコワーキングスペースの空間づくりはすばらしい。疲れたなーと思って周りを見渡すとがんばっている人がいる。もう少しばんばろうとスイッチが入る。15:00になるとコーヒーを淹れてくれてリフレッシュできる。わざとらしく作られたコミュニティではなく、あくまでも自然発生的にコミュニケーションが生まれる動線を作ってくれている。コワーキングスペースでの風景やコーヒーの香りは限りなくシグナルに近いノイズであり、ホワイトノイズという上品なノイズの存在を実感した。

オンラインミーティングにはアバターが必要

「人vs人」ではなく「問題vs問題」という認識を、会議に参加する全員が理解していることが必要。「人vs人」から「私たちvs問題」にシフトさせる。たとえ自分個人の意見はAであっても今回の会議はBの立場で会議に参加するなど、対等の立場で横並びの関係ができていて、同じゴールをみているからこそできること。

ここ数ヶ月間、そんな当たり前の会議ができなくなってはいないか。「人vs人」から「私たちvs問題」へと補正するツールがたとえばホワイトボードであり、それをWebサービスやツールなどでデジタルに拡張できていたはずが、ツールがホワイトボード以下のものに成り下がってしまってはいないか。

最初からあったはずのリアルを取り戻すため、リアルを拡張するデジタルツールとの調和性を高めるため、アバターのようなクッションが必要だと思っている。

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