Spiral Burner Cooktop by Alireza Alavi » Yanko Design

左上のバーナーに火をつけたい場合、どのツマミをひねるでしょうか?

このコンロにはいくつか問題がありますね。

  1. バーナーとツマミの対応付けが曖昧なので、付け間違い、消し間違いが起こりやすい。
  2. よく見るとツマミの側にアイコンで示されているけれど、これが消えてしまったら、もはや手がかりがない。
  3. 汚れやすい場所にツマミが付いているので、掃除の時にバーナーに火がついてしまうかも知れない。

上の問題をいくつか解決したものが次のコンロです。

Scale Gas Range by Naeun Kang » Yanko Design

こうなっていると分かりやすいですね。対応付けという意味ではね。

デザインってなに?

デザインにはアフォーダンス(affordance)という考え方があります。たとえば森の中に、ちょうど人が座れるくらいの高さの切り株があったとしたら、人はそれをイス(座れるもの)だと認識します。「ご自由にお座りくだい」や「これはイスです」と書かずに、うまく動線をつくることで人を導くことができるのです。

押して開けるドアと引いて開けるドアがあるなら、わざわざ「押す / 引く」や「PUSH / PULL」と書くんじゃなくて、押して開けるドアにはプレートだけを取り付けておいて、引いて開けるドアには取っ手をつける。問題をデザインの力で解決することで、見た目をシンプルに美しくできるのですね。

デザインはアートではありません。たとえばWebサイトには、ビジュアルで感性に訴えかける「ビュー」と、ページ移動などのナビゲーションを行う「コントロール」という2つの要素が共存します。ここ最近の Webデザインの流れとしても、ビューがコントロールになりうることもあり、コントロールもビューとしての役割を果たします。

これは常に変わり続けるもので、そもそもマウスという概念のないスマートフォンでは、指の太さを考慮したボタンの大きさ、1カラム(サイドメニューがない状態)でのメニューの置き場所、回線速度を考慮してクリック回数を減らして1ページ内でスクロールで見せるなど、技術とデザイン(設計)は切り離して考えられるものではありません。

デザインだけじゃなくて、人の記憶(経験)から補完される要素も大きいです。パソコンもスマートフォンもネットも使ったことのない人にとって、Amazon でものを買うことも難しいはずです。逆にいうと、デザインは人の記憶を利用できるということですね。

デザインのフレームワーク

デザインは設計です。ある程度は体系化されたフレームワークとして理解することもできます。これを利用するためのルールもあります。

人の記憶を使うならば、緑は「GO」で赤は「STOP」とすること、これを逆にすると混乱しますね。ひとつのブロック(まとまり)として情報を並べることで、その情報がひとまとまりだということがわかります。情報のシグナル(伝えたいこと)とノイズ(装飾)の比率を調整することで、伝えたいことが伝わりやすくなります。

デザインはストーリー作りですね。伝える側と受け取る側とのコミュニケーションには色々な手段があります。雑誌や新聞、テレビ、ネットなど。たとえば文字に比べて画像でのコミュニケーションはスピードが早いです。ひとくくりにネットといってもストーリー作りの方法は違いますね。

02_アクセシビリティ
ものや環境は、変更を加えなくとも、できるだけ多くの人々が利用できるようデザインされているべきである。

03_先行オーガナイザー
既有知識に照らし合わせて、新しい知識を理解させる教授法。

05_アフォーダンス
ものあるいは環境の物理的特徴がその機能に影響を与えるという属性。

10_チャンキング
数多くの上方単位を連結させて、限定数のユニットあるいはかたまり(チャンク)にし、情報を処理しやすく、記憶しやすくする方法。

15_共通運命
同じ方向に動いている複数の要素は、異なる方向に動いている要素や静止している要素同士よりも、互いに関連していると知覚される。

18_一貫性
同じ部分が同じ方法で表現される時、システムの有用性(ユーザビリティ)は向上する。

35_図と地の関係
要素は図(焦点を合わせる対象)あるいは地(その他の知覚域)のいずれかとして知覚される。

86_SN比
ディスプレイ上の、意味のある情報と無意味な情報の比。デザインでは、SN比ができるかぎり高いことが望ましい。

87_類似性
類似性のある要素同士は、類似性のない要素同士よりも、関係が深いと認識される。

88_ストーリーテリング
語り手と聞き手の交流を通して、出来事のイメージ、感動、理解を生み出す手法。

【デザインの法則】Design rule index―デザイン、新・100の法則

デザインの生かされる場所

たとえば講釈師(こうしゃくし)という職業があります。落語家みたいに面白い話をする人です。講釈師がざわついた会場に入ってきて「はーい、今から面白い話をするのでみんな静かにしてくださーい」とは言いません。

どうするかというと、小さな声で話し始めるのです。

講釈師は会場をデザインし、動線をつくり、自分の話に耳を傾けてもらい、目に見えない「張り紙」をなくしたのですね。

そう、張り紙を抹消したい。

わざわざ汚れるところで「汚さないで」。壊れるところで「壊さないで」と書くのは残念。それは動線や場所のデザインが問題なんだと思います。すべてはデザインのせいにしていきましょう。生活する人が悪いのではない、デザインが悪い。

すべての間違いはデザインのせい

たとえば夜、家に帰ってきて、部屋の明かりをつけたいとします。どのスイッチをつければ良いか? 経験上、玄関から近い順に上からスイッチが配置されている場合が多いけど、統一されているわけでもなさそうです。

こういうエラーを繰り返してしまうのは、覚えられない人が悪いのではなくて、すべてデザインが悪いのです。

部屋の明かりのスイッチがこうなっていたとしたら、少しはエラーを防げるでしょうか。

Floor Plan Light Switch by Taewon Hwang » Yanko Design

この手段で解決できる場合もあると思いますが、もっとうまく動線を作ってスマートにデザインで解決したいところです。

自分でその行動を選んだかのように感じるけれど、それは完全に仕組みづくりされた行動なのですね。がんばって伝えるのではなく感じてもらうこと。良いデザインというのは、使っていて気持ちいいものだと思います。

もう少し踏み込んでいきますね。

イラッとくるエレベーターのボタン

正しく対応付けを行うなら、このように実際の建物の階の順番にもとづいたメタファーである必要があります。ただ、それに縛られることで逆に使いにくくなってしまう場合もあるのです。1Fから43Fまで縦に並べていたらボタンに手が届きませんね。

エレベーターで起こりうるストーリーを考えてみます。

  • 希望の階がない状態で乗り込むことはほぼない。
  • やっぱりもう少し上に行きたいとか、気分によって変わるものではない。
  • 押し間違いや、行き先の変更はある。
  • たまたま止まった階で、目的の階じゃないのに降りてしまうことがある。
  • 酔っ払っていても不自由なく使いたいので、できればワンアクションで済ませたい。
  • たとえば1Fから10Fまでは共有スペースで、11Fから上が住居スペースなど、各階によって優先度に違いがある場合もある。
  • 不特定多数の人が訪れる階と、特定の住民が訪れる階など、使う人が限定されている場合もある。
  • エレベーターに関する法律もクリアすること。

もっとデザインを取り入れていくべき所ってあると思うのですよね。

こちらの関連記事もあわせてどうぞ!